導入事例

HubSpot導入事例|AnyMind Group

作成者: Rodrigo Souto|2022/01/11 2:35:23

CFO自らの主導でスタートしたCRM導入プロジェクト

AnyMind Group のCRM導入プロジェクトを主導したのは、CFOの大川 敬三氏(以下、大川氏)です。業務では資金調達やM&A、株式上場に向けた財務戦略を統括し、現在はバンコク拠点でコーポレートガバナンスの強化を担っています。

「プロジェクトは2019年の12月から、私と増田、エンジニアの3名がコミットする体制でCRM導入のプロジェクトが始動しました」(大川氏)

世界13マーケット、17の拠点で従業員800人以上を抱える規模の企業において、経営層が直接オーナーシップをもってCRMの導入に取り組むことは珍しいこと。大川氏と同じくプロジェクトの初期から参画している増田 隆宏氏(以下、増田氏)は、前職でCRMや売上管理システムの導入サポートを実施してきました。

「2017年の入社後はベトナム拠点での勤務を経て、現在はバンコクからグループ全体の基幹業務システム導入やバックオフィス体制の構築プロジェクトを担当しています」(増田氏)


課題は「営業活動のブラックボックス化」と「顧客情報のサイロ化」

営業・マーケティングの課題に対する危機感は経営層だけでなく、現場からも聞こえていたそうです。CRM導入のプロジェクトが持ち上がった背景について、現場と拠点間それぞれに課題があったと大川氏は振り返ります。

「課題は大きく2つです。まず現場レベルでは『営業活動のブラックボックス化』が課題でした。それによって個人の営業活動が正確にトラッキングできず、マネージャーは正しいフィードバックができませんでした。また、新しく入社した営業担当が過去のコンタクト履歴を調べることができず、無駄な営業をしてしまう、顧客とのコミュニケーションロスもおきていたのです。

もう一つの課題は拠点レベルで『顧客情報のサイロ化』、つまり顧客情報が各マーケットごとに管理されていたことです。世界13のマーケット、それぞれの国やチームで別々の管理ツールを利用したり、スプレッドシートを作成していました。そのため、リアルタイムで全拠点の現状を把握をすることが非常に困難で今後の見通しも建てられない、そんなカオスな状態がおよそ3年も続いていたのです」(大川氏)


ERPだけでは、拡大する事業すべてを一元管理することはできなかった

同社では当初、国産の業務改善ツールと欧米諸国を中心に導入されている会計システムによるERP(Enterprise Resources Planning:基幹系情報システム)を全社的に導入していました。そこでERPシステムを利用した情報の一元管理を試みたものの、顧客情報や見込み案件管理で利用するには現実的ではなかったため、CRMの導入を検討するようになったと増田氏は話します。

「ERPでも顧客管理はできると言われていたものの、実際には案件と顧客の『パイプライン管理』を行うには機能が不十分でした。

その一方で、CRMの導入は以前に何度も議論に上がりましたが、拠点をまたぐマネジメントへの懸念や、導入しただけで使いこなせずに放置されている他社事例を耳にすることもあり、活用できるかを不安視する声も根強いものでした。

しかし、今後も拡大する事業規模と従業員の流動性が高いマーケットが存在したことから、『営業活動のブラックボックス化』と『顧客情報のサイロ化』という課題に対処する必要性が高まり、CRMの導入を本格的に進めることになったのです」(増田氏)

情報管理の仕組みと課金体系が決め手となり、導入を決定

「導入するCRMを選定する上でHubSpotを選んだ一番の理由は、情報管理の仕組みが当社のイメージと最も近いと考えたからです。

『営業担当がただ情報を入力するだけのCRMではなく、AnyMind Groupにあるすべての営業情報を一元化するためのCRM』を当社では求めていました。そのために導入プロセスにおいてより多くの社内メンバーが使いこなせるユーザーインターフェースや機能を備えていることは重要な観点でした」(大川氏)

CRMに限った話ではなく、サービスの思想や仕組みを反映しているのは見た目上の機能だけではありません。ツールの課金体系も重要な要素の1つです。13ものマーケットで展開する同社では、予算内でより多くのメンバーにアクセス権限を付与できることを重視していました。

「利用ユーザー単位で費用がかかる一般的な課金体系では、どうしてもユーザーアカウント数を削減してコストを最適化しようという発想に陥りがちです。これはより多くのメンバーにCRMを浸透させ、すべての情報を一元管理したいという当社のイメージとは合致しません。

その点、HubSpotではコンタクト(CRMに登録した見込み客)や取引パイプラインの管理などのコアな機能は、利用ユーザーの制限なく利用できる仕組みを採用しています。管理者には有料のユーザーアカウントを与え、それ以外のメンバーは無料の機能を使用するという仕組みであり、当社が実現したい情報管理イメージにとても近い設計思想だと感じました」(大川氏)


すべてのマーケットにHubSpotを浸透させた「5つの施策」

HubSpot契約後、2020年3月には本格的なCRMのプロジェクトチームが発足しました。当初3名だったチームにはエンジニアが2人加入し、現場への浸透にはカントリーマネージャーをアサイン。契約から半年で本格的な運用に至っています。

事情がそれぞれ異なるマーケットに展開している同社にとって、全社に新しいツールを定着利用させることは容易なことではありませんでした。HubSpot導入から1年経った現在地について、増田氏に伺いました。

「当初の導入スコープであったマーケティングプラットフォーム事業では、ほぼ100%の利用定着率に達成しました。この結果を受け、現在では他の事業部にも横展開しています。

利用定着率を達成するためのポイントは5つの施策であったと分析しています。

1.経営層の協力

CRM導入に失敗した他社を分析した結果、マネジメント層がコミットすることの重要性を社内の共通認識として持つことができました。プロジェクトの立ち上げ期にCFOの私が参画し、後にマーケティングプラットフォーム事業の取締役が旗振り役を務めました。このダブルオーナーシップの体制で進められたことで、社内からの理解を得ることは難しくありませんでした。

2.リソース確保

プロジェクトチームは必要に応じて拡充させています。当初は3名でスタートしましたが、次第に要望とタスクが膨らみ、スケジュールが押してしまうことも。そこでTechチームからのメンバーを募集し、分業体制を確立することでスピード感のある導入を実現しています。

3.営業の負担を減らすための事前準備

導入後すぐのタイミングで、各拠点に散らばっていた営業情報と担当者情報を回収しました。それらのデータをHubSpotへ移行し、「ログインしたらすぐに使える」状態にしていきました。

また各国の拠点にヒアリングし、商習慣に合わせた営業パイプラインのカスタマイズをエンジニアが実装していきました。さらに、営業がすぐに使える「売上レポート」のアウトプットも作成しています。

4.現場営業へのフォロー体制

現場営業へのCRM導入フォローでは、まず社内向けに導入ガイダンスを実施しています。また、いつでもCRMに関する情報が得られる「オンラインwikiページ」と「HubSpot Q&A専用チャット」を制作しました。各国の言語ごとにフォローする必要があるため、現在10のグループチャットがアクティブです。

5.入力しないと“困る”仕組み

営業ミーティングには、ほぼ必ずHubSpotのダッシュボードを活用しています。そのことを周知させることで、ちゃんと営業情報を入力しないと困る状況を構築しました。

また、現場のミーティングだけでなく、カントリーマネージャーやマネジメント層のミーティングでも使用しています。それによってマネージャーが常に数字を確認し、入力不足があった場合は各メンバーへ入力を促す仕組みにしています」(増田氏)

「この非常に高い利用定着率には、HubSpotさんの丁寧なサポートも背景にあります。

営業レポートやワーフクローの相談にもドキュメントでお返事を頂いたり、急ぎの際はタイまで電話を頂いたことも……。当社独自のカスタマイズ要望をはじめ、さまざまな相談にも迅速かつ的確にご対応いただき、本当に助かりました。

『HubSpotの定着』という共通のゴールを見据えていたからこそ実現できたことだと思います」(大川氏)

HubSpot導入前後ですべての拠点で売上が成長!400%超の拠点も

『営業活動のブラックボックス化』と『顧客情報のサイロ化』という課題を背景に、AnyMind Groupの営業情報を一元化する目的でスタートした今回のプロジェクト。HubSpot導入から1年が経ち、どのような変化があったのでしょうか。増田氏に定量的な成果を伺いました。

「HubSpot導入前後で売上進捗を比較すると、各国で軒並み上昇傾向が見られました。次の図表は、導入期である『2020年第2四半期』と比較した、同第4四半期の売上成長率を示しています。

特に大きな成長率を示しているカンボジア、フィリピン、マレーシアでは、400%超も売上が増加しています。これらの拠点はまだ小さいため、営業メンバーも別の拠点から遠隔でマネジメントされています。その結果、HubSpotによってシステム的にコミュニケーションや進捗管理をすることで、生産性が大きく向上したものだと考えられます。

マーケティングプラットフォーム事業の責任者からは、およそ週7時間の業務効率化を実現したとの声が届いています。これまで煩雑化していたファイルの管理が楽になったこと、入社してすぐのメンバーへの営業情報の引き継ぎや教育がスムーズになったことで大幅な業務改善を実現しました。

また、パブリッシャーグロース事業の責任者からは、新規の売上が年間1,000万円近く創出できているそうです。HubSpotの顧客データをベースとしたマーケティング施策でメール開封率やクリック率をモニタリングし、数値の高い顧客をホットリードとして営業にパスできるようになったそうです」(増田氏)

プロジェクトの定性的な成果として、大川氏は「営業活動の履歴がトラッキングできるようになったこと」を上げています。

「顧客のコンタクト情報を格納したプロパティに以下の項目を作って更新しています。

・直近のコンタクト手段

・取り引きした営業メンバー

・対応した担当者

・所感

この履歴を確認することで、ロジカルな顧客アプローチが可能になり、当初の課題であった『営業活動のブラックボックス化』もかなり解決できたと思います。また、営業の売上進捗も可視化できるようになったことで、新人育成もスムーズになりました」(大川氏)


数字のトラッキングは実現。次はより質の高い営業活動の実現へ

大川氏はこの1年を振り返り、ようやく「第一部」が終わったイメージだと語ります。HubSpotの導入はあくまで出発点であり、すべての事業部で導入され、営業情報がすべてHubSpotにありう状態を目指していくとのことです。

今回のCRM導入プロジェクトを初期から推進してきた大川氏、増田氏に今後の展望について伺いました。

「この1年、たくさんの部門、たくさんの方に理解・協力いただいて、やっとHubSpot運用を軌道に乗せることができました。これからは数字をトラッキングするだけでなく、結果を出すための施策に繋げられるよう、HubSpotを活用していきたいです」(大川氏)

「営業活動を体系化し、より効率化して質をあげていく施策には、まだアプローチしきれていません。また、当社では新規事業もどんどん増えておりますので、それらをいかにプロセスに組み込んでいくのか、ますます複雑化する中で、定期的にプロセスのシンプル化を検討したいですね。

今はプロジェクト形式で推進していますが、長期的には5年、10年と息を吸うようにシステムがカルチャーとして続いていくことが重要かなと考えています」(増田氏)