アウトバウンド営業が効かない。インバウンド体制構築へ
イベントレジストは、イベント作成や参加者の管理といった基本的な機能は無料で利用することができます。一方で、来場者のトラッキングやタイムテーブルの設定など、法人主催のイベントや大きな展示会のようなイベントの運営に欠かせない機能は、「プレミアム機能」として有料で提供しています。取締役最高業務執行責任者(COO)の小笹文氏(以下、小笹氏)によれば、同社ではこのプレミアム機能の営業に課題を持っていたといいます。
「プレミアム機能は、基本的にB2Bの営業で、ターゲットはB2Bイベントや展示会の主催者様です。当社にも営業担当者がいますが、企業のB2Bのマーケティング担当者にはアウトバウンド営業が効きづらく、電話をしても出てもらえないケースが多いのが現状。オンライン広告も効果が低いのが現実です。
そうなると、ターゲットリストにいくらアウトバウンド営業をしても、“打率”はどうしても低くなってしまいます。当社はベンチャー企業で規模も小さく営業担当者も限られた人数しかいないため、いわゆる従来の『リスト営業』では効率も悪くなりメンバーも疲弊してしまいます。この状況を改善するために、イベント主催者/マーケティング担当者の方から当社を見つけていただけるような仕組みを作り、お問い合わせに対して課題解決の提案をするというインバウンドの体制に切り替えることにしました。」
B2B商材のマーケティングにおいて、見込み客(リード)を獲得する「リードジェネレーション」と、その見込み客に対して段階的にアプローチして購買意欲を育てていく「リードナーチャリング」は重要な取り組みです。イベントレジストでは、リードジェネレーションの施策としてブログの活用を考え、実現するツールとしてHubSpotを採用しました。
「イベントを開催するとき、主催者様は会場と日時の検討には時間を使いますが、事前登録システムの検討に十分な時間を費やせないことが多いのが現状です。主催者様も集客のためにできるだけ早く告知を開始したいため、会場や日程が決まるとすぐに、告知に向けての準備を進めはじめます。」
イベント事前登録のプラットフォームを提供する企業ならではの特性を語る小笹氏。EventRegistは、セミナーなどのイベント登録のためのプラットフォームであるため、見込み客となる企業は導入検討段階で既にセミナーやイベントの開催日時が決定しているケースが圧倒的に多くなります。
つまり、イベントの事前参加登録をする方法を探し始めた企業の担当者に、すぐに見つけてもらう必要があるということです。
「もともと目的・用途が明確なサービスですし、お問い合わせも“急ぎ”が多いため、お客様にとって費用と機能が見合えば他社と比較検討するといったことはあまりありません。『内容はほぼ決定しているので料金を教えてほしい』というリクエストに対して、イベントの概要をヒアリングさせていただいた上でお客様にとって最適な機能の提案とお見積をご提示するという、とてもシンプルなコミュニケーションになります。
つまり、お問い合わせや資料請求をしてくださった時点で、その方たちはすでにマーケティングファネルの下のほうにいるということになり、今までの経験から契約までの“打率”はある程度見えてきています。ですので、売上を増やすには『話を聞きたい』という方をいかに増やすかが鍵となります。そこで、お問い合わせというファネルの入り口を増やすために、EventRegistやイベント開催についてのノウハウをできる限り公開し、それをきっかけに問い合わせてもらうという仕組みにしようと決めました。」
そこでイベントレジストが実施したことは、イベントの主催者側がイベント運営で課題に感じていること、悩んでいることに答えるブログ記事を公開するということでした。ブログ記事を公開することで、問い合わせの間口を拡げると同時に、自社やサービスに対する信頼感・安心感を高めることも目的としました。
「EventRegistの機能だけではなく、『セミナーやイベントの運営で悩んでいたらここに行きついた』というブログにしようと思いました。そこからHubSpotを使用してブログ記事を公開していくことになったのが2013年の年末でした。」
必ずブログ記事を更新。
HubSpotで記事の品質管理やSEO対策も容易に
HubSpotで記事の品質管理やSEO対策も容易に
インバウンドマーケティングの体制構築を決意したイベントレジストでは、まずはイベント運営のコンテンツを作ろうと、毎日1記事、必ずブログ記事を公開することを決めました。当初は小笹氏が一人で執筆していましたが、後に各営業担当者も日替わりで担当し、コンテンツの最終的な仕上げと品質管理は小笹氏が担っていきました。
「各営業担当者がドラフトを作成し、私に共有してもらいます。私がその記事をHubSpotで作成しながら必要に応じて修正をしたり、記事にふさわしい画像をストックフォトから探して追加するという流れで記事の品質を保っていました。外部の方に寄稿していただく場合も同様で、その場合は最終的にプレビューで確認していただき、必要な修正を加えた上で公開という流れで行っています。」
その作業のプロセスについて小笹氏は次のように語ります。
「HubSpotはコンテンツ作成から公開までがとても簡単です。修正や各営業担当者とのやりとりもHubSpotですととてもシンプルで、コーディングの知識も必要なく直感的に操作することができるため、エンジニアやデザイナーの手をわずらわせる必要がありません。クラウドですから場所を選ばずに操作できますし、公開後すぐに記事をSNSで拡散することもできます。このように、コンテンツ作成からソーシャルメディア投稿までの一連の流れをストレスなく行えるとてもいいツールで、見込み客を獲得するための施策において重要な位置づけになると実感しました。」
イベントレジストでは見込み客獲得の効果をさらに高めるために、HubSpotのSEOチェックツールを活用してキーワードを盛り込んだり文章を調整するといったことも行っています。また、HubSpotの各種ツールも日々使いやすく便利になっていることを実感していると語ります。
実際にブログに100記事ほど公開した辺りから、お問い合わせも増えていったそうです。
「ブログ経由のインバウンド以外にも、展示会でリードを獲得したり、EventRegistユーザーの紹介で広がっていくこともあります。アウトバウンドの営業もまったくしていないわけではありませんが、“打率”の違いは明らかで、インバウンドの成約率はとても高いと感じています。
実は、イベント運営に関する悩みというのはあまり大きく変わることはないため、公開したブログ記事が古くなるということはあまりありません。ですので、ブログのコンテンツが何年たっても生き続ける。2014年の10月にアップした記事が、今でもキーワード検索結果の上位を維持しており、そこからのお問い合わせが今でもあります。苦労して書いた記事がそうして“長生き”しているのは、とても大きなことだと感じています。」
(数年以上検索結果上位にランキングされるEventRegistの記事)
しかし、HubSpotの導入当時には自社のウェブサイトで抱えていた悩みもあったそうです。イベントレジストが持っていたのは、EventRegistのサービスサイトとシンプルなコーポレートサイトのみ。そこで、小笹氏はその2つのサイトに加えて、HubSpotでコンテンツを公開し見込み客を獲得するためのマーケティングサイトを新たに作り、サービスサイトと連動させることを考えたそうです。
「新たにマーケティングサイトを立ち上げるとはいえ、サービス開発を本業とする開発部門に手間をかけさせたくなかったので、HubSpotのテンプレートを利用してまずは自力で立ち上げました。マーケティングサイトを運用していく中でこのサイトが営業活動の中でどれだけ大事なのかということを開発部門にも理解してもらい、そこからマーケティングサイトとサービスサイトとの連動を少しずつお願いしていきました。
その過程で気付いたのが、サービスサイトからマーケティングサイトへの導線が弱すぎるという根本的なこと。マーケティングサイトが後発になったので当たり前なのですが、同じようにあとからHubSpotでブログなど導入したユーザー企業の方も、もしかしたら同じ悩みを持つ方が多いのではないでしょうか。」
現在は、イベントレジストでも自社のエンジニアやデザイナーに協力を仰ぎサービスサイトとマーケティングサイト間の導線強化を行っています。
「導線強化後、その効果は数字にはね返りました。2016年1-6月期で見込み客数が急激に増えたのもこの導線を明確にした結果だと考えています。サービスサイトからマーケティングサイトへイベントを計画している担当者がスムーズにアクセスしてくれるようになりました。さらに、サービスサイト側にもHubSpotのCalls-to-Action(CTA)のボタンを置いたりすることで効果を測定できるように改善していきました。
また、ブログの記事下にもCTAのボタンを設置しており、何種類かあるeBookの中でベーシック版のeBookをすでにダウンロードしている人に対してはプレミアム版のeBookダウンロードを促し、それもダウンロードしている人にはお問い合わせをすすめるといったようなCTAを作成しています。中には、閲覧する人の区分に応じて異なるボタンを表示するスマートCTAを使っているものもいくつかあります。当社としては、これでやっと最低限必要な構造にできたと思っています。」
HubSpotとEventRegistを連携し、リードのアクションを一元管理
イベントレジストではファネル拡大施策の一つとしてプラットフォームの活用セミナーを開催しています。セミナー前半では、イベント活用の動向を説明し、後半は営業担当が付いての個別相談会という流れにしています。その個別相談会でも、HubSpot導入のメリットがあったと小笹氏は説明します。
「実は弊社は、HubSpotをご利用のお客様向けに、EventRegistとHubSpotを連携させる仕組みを開発しており、EventRegistで申し込みをした方の情報をHubSpotに自動的に送ることができるようになっています。並行して、EventRegistのサービスサイトにもHubSpotのトラッキングコードを設置しており、『この方は以前に別のイベントに申し込もうとしてアクセスされていた』といったこともわかります。私達もその仕組みを自社のセミナーで活用しており、各営業担当が個別面談の際にお客さまとお話をする時に役立っています。」
※EventRegistでは、HubSpotとの連携アプリを独自開発しており、EventRegistで登録したイベント参加者のデータをHubSpot側へ送ることが可能となっており、HubSpot側で見込み客のウェブサイト上における行動をトラッキングすることができるようになっています。この機能はEventRegistのプレミアム機能として提供しており、プレミアム機能に申し込むことで利用が可能となります。
プレミアム機能のお問い合わせはこちら http://info.eventregist.com/premium_features
EventRegistとHubSpotの連携設定画面を見ながら小笹氏はこう続けます。
「この連携をうまく活用すると、セミナーの個別相談会の場でこの方がどういう経路でセミナーに申し込んだか、eBookをダウンロードしたことがあるかどうか、これまでにどのコンテンツを見てくださっていたのかということが、HubSpotを見ればわかるという状態になります。それにより個別相談会でのコミュニケーションの仕方を変えられるというのは、統合してよかったと感じるところの一つです。」
メールマーケティングの可能性に再着目――インバウンドはHubSpotでもっと改善できる
こうしてHubSpotを使用することでファネルの入り口を拡大しながら、お問い合わせをさらに増やすための施策をいろいろ試していると語る小笹氏に、今後の取り組みやHubSpotに対する希望と今後の方針にお話いただきました。
「現在行っているメール施策はさらに改善の余地があると思っています。今は購読希望者全員に同じ内容を送っているメールマガジンも、ペルソナなどでセグメントした上でコンテンツの出し分けを実現できたら反応はもっとよくなると思います。さらに、資料ダウンロード後に送信しているメール一つとっても、もっと工夫ができるという気がしています。セミナーを開催するたびにHubSpotに増えていくリードに対しても、今後はコミュニケーションの方法をいろいろ考えていきたいと思っています。
利用する前から感じていたのですが、利用している今でもHubSpotに選択して良かったと思っています。私たちが実現したかった『ファネルの上部を増やす』という目的に対してはとても使いやすく、これがなかったらかなり苦労していたと思います。HubSpotを利用したことで業務がかなり楽になり、マーケティング活動におけるPDCAのサイクルを回すスピードも一気に短縮できたというのはとても大きいことでした。
『HubSpotを使うことは、もう1人マーケターを入れたような感覚に近い』とおっしゃった方がいるそうですが、本当にそのとおりだと思います。放っておいても1人で仕事を進めてくれているような感じがあります。当社の出したい成果と予算感に対してかかっている費用のバランスも悪くはありません。
反対に、私たちがHubSpotの本当のよさをまだ使いこなせていないところがいろいろあると思っていますので、使いこなしていくのがこれから楽しみなところの一つでもあります。まだまだ改善できるところがあるということですから。」