企業の経理業務に関わるさまざまなPC用基幹業務系パッケージソフトウェアを開発・販売・サポートする企業、ピー・シー・エー株式会社。デジタルマーケティング実践に注力する同社では、2020年にHubSpot Marketing HubとSales Hubを導入しました。マーケティング、インサイドセールスの両組織が連携し、顧客接点に丁寧に向き合う中で、クラウドモデルのMRRは5倍へと成長。従来の販売代理店との協業体制にも貢献できているそうです。
営業(インサイドセールス)とマーケティング、組織の垣根を越えた施策連携は、どのように進められたのでしょうか。そして、MRR5倍の成長を実現した背景には、どのような工夫があったのでしょうか。
同社のHubSpot導入と運用をサポートした株式会社クリエイティブホープのご担当者を交え、取り組みの背景にあった課題から、現在のHubSpot活用の状況、そして得られた成果についてお話を伺いました。
事業本部 事業戦略部
デジタルマーケティンググループ
課長
富村 有弘氏
事業本部
カスタマーサクセス部
カスタマーエクスペリエンスセンター
課長
石井 拓也氏
株式会社クリエイティブホープ
グロースハック事業部
ビジネスコンサルタント
篠原 誠氏
PCA社がデジタルマーケティング実践に本腰を入れ始めたのは、インサイドセールス担当も含めたデジタルマーケティンググループが発足した2018年のことでした。新規リードの創出と管理のためのマーケティング活動を開始したのです。
「当時は何をすればいいのか分からなかった」と語るのは、同グループ立ち上げ以前よりWebサイトの運用管理に携わっていた富村 有弘氏です。当時の状況と取り組みについて振り返っていただきました。
「まずはお客様に訪ねていただく自社のWebサイトを整備することから着手しました。そこで働き方改革やデジタル活用の情報を発信するオウンドメディア『P-Tips(ピーティップス)』を2019年に開設し、とにかく訪問者数を増やすことに注力しました。その後、デジタル広告も活用することで順調にリード創出できるようになってきたんです。ただ、資料請求を受けて資料を送付した後、どのようなフォローをしているか、エンドユーザーとの間に販売代理店様が入ることもあってあまり把握できていないことを課題と感じていました」(富村氏)
そんな中、転機は2020年の年末に訪れました。組織改編により、それまでマーケグループ内にあったインサイドセールスチームが、独立の部署であるカスタマーエクスペリエンスセンター(以下CXセンター)として活動することになったのです。その当時、マーケグループでは他社のMAを導入しており、インサイドセールスチームではマクロを組んだ独自のExcelで商談管理を行っていました。インサイドセールスチームの拡張、CXセンターとしての組織化決定を受けて営業活動管理をどうすべきか、MAのデータとの連携について検討することになったのです。
PCA社のHubSpot導入を支援したパートナー企業、株式会社クリエイティブホープの篠原 誠氏に、当時の提案内容と外部からみたPCA社の状況について伺いました。
「当時のPCA社はすでにMAを使いこなしており、商談前後の顧客データをExcel上でも管理できている状況でしたので、MAに続き、SFAを導入するための下地は整っている印象でした。そこで体制をさらに強化するために最適だと考えたのが、統合型CRMプラットフォームであるHubSpotの導入です。HubSpotであれば部署間の情報を1つのCRMで一元管理できるため、顧客データの連動の問題は解消され、将来的に部署が増えたとしても部署間でデータが分かれてしまうことはありません。しかも、他社MAの費用とHubSpotのMA+SFAの費用がほとんど変わらなく導入できるため、ご提案させていただいたのです」(篠原氏)
クリエイティブホープ社からHubSpotの提案を受け、富村氏含め数名がトライアルとしてHubSpotを利用しています。当時の第一印象について、富村氏に当時の感想を振り返っていただきました。
「以前に導入していたMAに比べ、HubSpotのUIは洗練されている印象を受けました。機能も豊富で、自由にカスタマイズできるツールなのだと感じましたね。
操作に迷った場合でも、カスタマーサポートに問い合わせるとすぐに的確な回答をしていただけるのでとても助かっています。また、『HubSpotアカデミー』というオンライントレーニングのコンテンツが用意されていたので安心でした。HubSpotの活用方法だけでなく、マーケティング全般の知識やノウハウに関するコンテンツが豊富に掲載されています。当社ではペルソナを検討した際も参考にしました」(富村氏)
HubSpotを導入した初期、PCA社ではまずWebサイト上のコンバージョンポイントを見直すことから着手しました。これまでPCA社のサービスは販売代理店様からユーザーに提供されるケースが多く、Webサイトに届いた問い合わせに対しても販売代理店様が対応していたため、間接的にしかユーザーの情報が得られていないという課題がありました。
まずはユーザーを理解することから始めたいと富村氏は考え、Webサイト上のユーザーアクティビティの可視化に取り組むことになったそうです。
「まずは電子カタログのダウンロードや体験版への申し込みといった、主だったフォームをコンバージョンポイントと設定することで、より多数のユーザーの情報が可視化できました。そこでフォーム入力されたユーザーをリードとしてCXセンターに渡すようにしていったのです。しかし、スタート地点のKPIを「リードの質」ではなく、「リードの数」としたことでマーケグループが施策を行うほどCXセンターに渡す「リードの数」が増え、CXセンターで対応できる限界を超えるようになりました。また、そうして増やしたリードも、電話が繋がらないケースも多いことがわかり、リードの数から質へと方針転換する必要がありました。
そこで、HubSpot上でコンバージョンに至るまでのWebアクティビティやユーザーのセグメントを抽出。情報だけ取得するユーザーか、製品に興味を持っているユーザーか、優先度を分けて必要なユーザーにのみアプローチできるよう、マーケグループ内のパイプライン上で見極め、リードとして毎週CXセンターにパスするという運用にしたのです。リード情報を連携する際には社内の別システムで企業規模や販売代理店さんのセールス履歴なども確認しています。
また、それらの抽出結果のフィードバックをCXセンターから得ることで、より見極めの精度が高められます。こうしたインサイドセールスとの連携を通じたサイクルが、個々のユーザーへの理解を深め、マーケ施策の質向上につながると考えています」(富村氏)
こうした「質」の追求をする中では、既存のペルソナの見直しなども実施中だそうです。マーケグループだけで設計したペルソナでは偏りが出てしまう可能性があるため、社内でも特に顧客の理解が深い石井 拓也氏を中心にCXセンターからも数名が参加。顧客イメージを言語化し、よりブラッシュアップされたペルソナをもとに部門横断での活動を続けています。
「Sales Hubを活用することで、理想的な営業活動を実現することに成功しています」と語るのは、インサイドセールスを担当する石井氏です。コンタクトごとのアクティビティ履歴を参照することで、お客様がどのWebページを見ているか、過去にどのような接点があったかを確認することができています。別の社員による過去の対応履歴も把握できるため、数年前の案件を再開しやすくなっただけでなく、担当者が退職した場合でも問題なく引き継ぐことが可能になりました。さらに石井氏は、インサイドセールスとしてお客様へ営業メールや電話営業をかける際にもアクティビティ履歴を活用しているとのことです。
「お客様への電話もメールも、タイミングが重要だと私は考えています。お客様の立場になって考え、どのタイミングで連絡をもらいたいかを考えるのです。
たとえば、日中はメールをみる時間がないほど忙しい役職者の場合、お昼休みに入る直前や、帰宅時間の直前にメールをお送りすることが多く、実際に返信をいただく確率も高くなっています。
営業メールを送信し、その後にお電話によるフォローアップに移るのですが、その際に重宝しているのが、HubSpotのメール開封通知機能です。私はメール開封通知が届き次第、すぐにお電話を差し上げるように心がけています。今まさにメールを開封したことを知っているため、すごく営業がはまりやすいのです。お客様からは『ちょうどメールを読んでいたところだよ』と第一声をいただくことが多く、手応えを感じています。
私にとって、メール開封通知は『お客様の心の声』であり、その声をHubSpotを活用することで可視化できているのです」(石井氏)
石井氏はその他にも、一度電話に出ていただいた役職者の氏名や特徴は、すべてHubSpot上にメモとして残しているそうです。履歴を残しておくことで、時間が経っても自社の担当者が変わっても、以前の記憶を持った「会社」として対応できるため、「はじめまして」から始まる営業を減らせています。
また、HubSpot上のお客様情報やアクティビティ履歴は、実際の提案を担っている販売代理店様へ共有を行っており、PCA社と販売代理店様の垣根を越えたご提案が可能になっていることも、評価いただいているポイントとのことです。
2020年12月のHubSpot導入から約2年が経ったPCA社の現在地について、取り組みを支援してきたクリエイティブホープ社は「マーケティングとセールスの連携が整い、新規案件のゴールを決める体制が整った状態」だとみています。HubSpot導入後の成果について、PCA社はどのように評価しているのでしょうか。今回の取組みと今後の展望について、3名にそれぞれ振り返っていただきました。
「今回の取り組みは、現場だけでなくマネジメント層も積極的だったことが印象的です。会社全体が『失敗を恐れず、どんどんやっていこう』というスタンスで、予算も余裕がありました。
積極的にHubSpotを活用した結果、施策の成果を可視化できただけでなく、そこで蓄積したデータの分析もダッシュボード機能を使いながら実践中です。たとえば、コンバージョンポイントごとで、リードの受注率に違いがあることなどがわかってきました。こうしたデータは施策の優先順位を考える上で参考になります。一つひとつの気付きや学びを、今後のマーケティング施策に活かしていきたいと考えています」(富村氏)
「弊社ではSaaSモデルのサービスを提供しており、MRR(月次経常収益)は重要な指標です。今回のHubSpot導入の取り組みを振り返ると、導入以前と比較してMRRは5倍以上にまで積み上げることができました。
今後は、受注が決まらなかったお客様へのフォローや掘り起こし施策にも着手し、さらなる提供価値の向上を目指したいですね」(石井氏)
「HubSpot導入を機に、PCA様のマーケティング活動は大きく進化してきたと思います。社内で成功体験がない領域の取り組みに対しても、積極的にチャレンジされています。進化を遂げた一番の要因は、関係者の皆さんが自分ごと化して使命感を持って取り組まれていることではないでしょうか。
また、IT業界では販売代理店様経由のビジネス展開が主軸というメーカーは少なくありません。製品に興味を持ったお客様との関係性を築き、契約直前のところまでサポートする、というPCA様の取り組みを支援させていただく中で、メーカーのマーケティング・営業活動の理想像を追求していきたいと考えています」(篠原氏)
取材の最後に、HubSpotを実際に活用して感じた、他社におすすめできるポイントについて、富村氏にお伺いしました。
「HubSpotで最も評価しているのは、Webサイトのフォームなど、マーケティング施策に必要なページを設計しやすい点です。Webサイトの設計、制作を外部へ委託していたときは思うように機能せず、成果が出ないこともありました。しかし、自社でLPを気軽に作成できるようになり、マーケグループの中でもユーザーを管理するパイプラインを構築したことで、自分たちで試行錯誤する習慣が生まれました。外注に頼って機動的に動けずにいる大企業のマーケターにこそ、おすすめできるツールなのではないでしょうか」(富村氏)
(前列右より)CXセンター 次長 菅原真吾氏、同部 課長 石井拓也氏、デジタルマーケティンググループ 課長 富村有弘氏、同部 次長 岡田邦彦氏、(後列右より)CXセンター 課長 菊地 衛氏、 デジタルマーケティンググループ 係長 喜多代 聡氏、同部 係長 矢萩 さおり氏、株式会社クリエイティブホープ 執行役員 グロースハック事業部 ビジネスコンサルタント 篠原誠氏、同社 ビジネスコンサルタント 白石達也氏