企業の経営者や役員と会って、この数年で業界の何が変わったかを尋ねたなら、おそらく「顧客」という答えが返ってくるでしょう。現代の顧客は、与えられた情報を疑い、自分で情報を収集します。また、企業に対して今まで以上の期待を抱くようにもなりました。例えば、ただ取引をする相手ではなく、それ以上の存在になってほしいと求めているのです。
そのため、長期的な関係を犠牲にする短絡的な意思決定や、顧客の価値観と相容れない言動、誤解を招くような行為は、顧客によってあっという間に拡散されてしまいます。
HubSpotは、持続可能で本質的な成長につながる効果的な方法があると確信しています。それは、顧客の成功が自社の成功に直結すると考えることです。これにより、ビジネスをさらに拡大できるだけでなく、大切な顧客の満足度とロイヤルティーが高まって顧客に愛されるようになります。また、持続可能な成長を実現できれば、顧客のいっそう高い期待にも応えられるようになるため、業績を伸ばし、顧客との良好な関係を築いて、さらに確実な成長への道筋を見いだせるようになります。
持続可能な成長を遂げる上で、卓越した顧客体験の提供は欠かすことができません。そこで重要になるのが「フライホイール」です。
HubSpotでは、卓越した顧客体験の提供を目指して組織全体が結束したときに生み出されるエネルギーを表現するために「フライホイール」というモデルを採用しています。注目したいのは、エネルギーを蓄え、放出する点です。ビジネス戦略について考えるとき、非常に重要な意味を持ちます。英国の発明家ジェームズ・ワットが考案したフライホイール(はずみ車)に着想を得ました。フライホイールは、シンプルな構造でありながら、驚くほどエネルギー効率に優れています。蓄えられるエネルギー量は、回転速度、摩擦の大きさ、サイズによって変わります。電車や自動車の車輪をイメージすると分かりやすいでしょう。
顧客を原動力にビジネス成長を遂げるには、このエネルギーを生かすことが特に重要です。
他のモデルでは、顧客を結果と見なします。それ以上でもそれ以下でもありません。顧客を創出するまでに費やしたエネルギーはファネルの末端で全て失われ、また振り出しに戻ることになります。
フライホイールでは、顧客に満足してもらい、紹介やリピート購入につなげることで、ビジネスのエネルギーが生み出されます。そうしてビジネスのサイクルが回転を続けるのです。
口先だけの謳い文句でもなければ、丸め込もうとうまい言葉を並べているのでも、同じプロセスをただ別の表現に言い換えているわけでもありません。
ビジネスをフライホイール型で捉えると、意思決定の内容や経営戦略もこれまでとは変わってきます。これについて詳しくお伝えする前に、まずはフライホイールの仕組みを説明します。
先に述べた通り、フライホイールが持つエネルギー量(勢い)は、3つの要素に左右されます。
この3つ全てを考慮しながらビジネス戦略を見直すことが、成功の秘訣となります。フライホイールの回転速度を高めるには、最も影響力の大きい領域に推力を加えることが重要です。推力とは、フライホイールの回転速度を上げるために実施するプログラムや戦略を指します。例えば、インバウンドマーケティング、フリーミアムモデル、フリクションレスな(摩擦の少ない)販売プロセス、リファラルプログラム、有料広告、カスタマー サービス チームへの投資などが挙げられます。顧客の成功を第一に考えて日々取り組んでいれば、顧客が自身の成功体験について潜在顧客に伝えてくれるようになります。
フライホイールに推力を加えるときには、それに反する力(摩擦)が働かないように注意する必要があります。つまり、摩擦の原因となる要素をビジネス戦略から取り除かなくてはなりません。摩擦とは、フライホイールの回転速度を落とす要因になるものです。例えば、非効率的な業務プロセス、部門間のコミュニケーション不足、従業員同士や顧客との認識のズレなどが考えられます。摩擦を低減するには、チーム体制、顧客の解約理由、カスタマージャーニーで見込み客を足止めさせている要因などに目を向けてみてください。全てのチームが分断されることなく、うまく連携できているでしょうか。価格設定が複雑で混乱を招くものになっていないでしょうか。見込み客のニーズに合った方法、場所、タイミングで接点を持てているでしょうか。自社のやり方を押し付けていないでしょうか。
速度が上がり、摩擦が抑えられているほど、多くの顧客がプロモーターとして自社を推奨してくれるようになります。そして、そのプロモーター全員がフライホイールを回す推力となるのです。
さて、ここまで説明してきたフライホイールモデルとインバウンド思想は、どのように関係するのでしょうか。HubSpotは、ファネルからフライホイールへの転換が非常に重要だと考え、フライホイールを軸に全社的な見直しを行いました。インバウンドマーケティングの解説ページも、フライホイールを通じてビジネスを成長させる方法をお伝えする内容にリニューアルしました。
新しいインバウンドの考え方が円形で表されるのは、このためです。インバウンドの思想を基盤とするフライホイールは、Attract(惹きつける)、Engage(信頼関係を築く)、Delight(満足してもらう)の3つの段階で構成されます。この3つの段階に推力を加えることで、素晴らしい顧客体験を実現できます。
例えばAttractの段階では、有益なコンテンツで訪問者を呼び込み、訪問者がスムーズに自社の情報を収集できるよう妨げとなる要因を取り除きます。ここでのポイントは、訪問者の関心を引くことであって、何かを押し付けることではありません。推力として利用できるものには、コンテンツマーケティング、SEO(検索エンジン最適化)、ソーシャル メディア マーケティング、ソーシャルセリング、有料のターゲティング広告、コンバージョン率の最適化などがあります。
次のEngageの段階では、コミュニケーションのタイミングやチャネルを顧客に合わせて、製品やサービスを購入しやすくします。成約をつかむことだけでなく、顧客との関係を築くことも重視します。この段階の推力には、ウェブサイトやEメールのパーソナライズ、データベースのセグメンテーション、マーケティングオートメーション、リードナーチャリング(見込み客の購買意欲醸成)、マルチチャネルでのコミュニケーション(チャット、電話、SMS、DM、Eメール)、セールスオートメーション、リードスコアリング、お試し版の提供などがあります。
そして最後のDelightの段階では、顧客の目標達成を的確に支援します。顧客の成功を自社の成功と捉えることが重要です。利用できる推力には、セルフサービス(ナレッジベース、チャットボット)、事前対応型のカスタマーサービス、マルチチャネルでの対応(チャット、SMS、DM、電話、Eメール)、チケット管理システム、自動での導入支援、顧客フィードバックアンケート、ロイヤルティープログラムなどがあります。
他のモデルからフライホイールに移行した企業は、自分たちの力だけに頼るのではなく、顧客の助けを得ながらビジネス成長を遂げられるので、大きな強みとなります。
新規顧客を引き寄せ、既存顧客と長期的な関係を築くには、この方法がはるかに効率的でしょう。
また、フライホイールには、チーム間の煩雑な引き継ぎを減らして摩擦をなくす効果も期待できます。ファネルでは通常、顧客がマーケティングから営業へ、そしてカスタマーサービスへと一方通行で引き渡されますが、顧客にとっては不利益が生じかねません。一方のフライホイールモデルでは、顧客を惹きつけ、信頼関係を築き、満足してもらう役割を、社内の全チームが担います。インバウンド思想を中心に全てのチームが力を合わせたとき、自社と関わる全ての人々に包括的に対応し、満足してもらうことができます。
「ファネルではいけないのだろうか」と疑問に思われている方もいらっしゃると思います。長い間、企業ではファネル型のモデルに基づいてビジネス戦略が組み立てられ、ある程度機能していました。しかし、マーケティングや営業の担当者も経営幹部も、期待したほどの成果が得られなかったのが実情です。既存顧客による紹介や口コミが営業プロセスに大きな影響を及ぼすようになった今、ファネルに弱点があることは否めません。それは、顧客を「成長のための推力」ではなく「事業活動の結果」として捉えているからです。ファネル型モデルの場合、顧客を創出しても、その顧客が自社の成長を後押ししてくれることは想定されていません。だからこそ、フライホイールが重要なのです。
フライホイールは、企業の成長にどのような推力が働いているのかを、取りこぼしなく1つにまとめて表現しています。
各チームの行動は、他のチームにも影響します。マーケティングチームからどのような情報が提供されるかによって、見込み客への営業プロセスにかかる時間は長くも短くもなります。また、営業チームがどう働きかけるかで、見込み客が顧客になってからの満足度や成果が左右されます。そして、顧客がプロモーターに転換するか、つまり同僚に自社を推奨してくれるか、それとも利用しないように警告するかは、サポートチームやカスタマー サービス チームの対応次第と言えるでしょう。
現在の顧客は、企業に問い合わせる前にB2Bの営業プロセスの57%を済ませています。そして、購入の意思決定時に参考にするのは、企業側が用意したマーケティング資料ではありません。第三者のレビューサイトや同僚からの推薦、口コミが従来よりも意思決定に大きく影響するようになりました。それに伴い、企業に対する全般的な信頼度は急速に低下しており、購買者の81%が「企業の提供しているアドバイスよりも家族や友人の推薦を信頼する」と回答し、55%が「以前に比べて販売元の企業を信用できなくなった」と回答しています。
これまでにないほどコミュニケーションの場が増え、大勢の人々と情報を交換できるようになった結果でしょう。ファネルは、顧客が製品について情報を得るプロセスをうまく表現していました。まずマーケティング資料を見つける(または受け取る)、詳細情報を入手するために営業担当者に接触する、そして購入するという流れです。
今日、購買者の意思決定プロセスは大きく変化しました。友人や知人にアドバイスを求め、ソーシャルメディアで企業に関するコメントを探し、レビューサイトで既存顧客の評価を確かめています。
従来のファネルでは、このような要因を説明することはできません。また、ファネルは直線的なので、優れた製品やカスタマーサービスによって生み出されるエネルギーや、プロセス上の障害によって起こる成長の遅れについても表現できませんでした。
フライホイールは、そうした推力や摩擦をまとめたメンタルモデルです。社内プロセスの摩擦を軽減すれば、フライホイールの回転速度が上がり、ひいてはビジネスの成長速度も向上できます。さらに、インバウンド思想をフライホイールに当てはめると、顧客に満足してもらうことの重要性がよく分かります。インバウンドの「Delight(満足してもらう)」段階は、次の「Attract(惹きつける)」段階の勢いを左右します。なぜなら、顧客がどのような対応を受けたかによって、見込み客の元に届く評判が変わってくるからです。
簡単に言うと、フライホイールでは、ビジネスのどの部分が急成長しているかを総合的に把握できるとともに、最大のチャンスが潜んでいる領域を明らかにすることができます。
ただし、ファネルが一切使用されなくなるという意味ではありません。組織の成長プロセスを表すモデルとしてはフライホイールが適切ですが、社内のさまざまな業務プロセスの効果を表す場合にはファネル型の図やグラフも引き続き使用されます。特定の業務領域のパフォーマンス向上にも、ファネル型の図が役立つかもしれません。このとき注意したいのが、ファネルで図示しやすいプロセスも、大局的に見ればフライホイールの一部であるということです。
HubSpotもファネルからフライホイールへ、一夜にして移行できたわけではありません。それどころか何年も費やしていますし、今もなお未完成です。以下のようにして、顧客を中心に据えたフライホイール型のビジネスに移行を実施してきました。
「HubSpotのフライホイールは、お客さまを成長の原動力と考える円環型のプロセスです。私たちはカスタマーマーケティング、カスタマーアドボカシーの獲得、新規顧客のニーズに合わせた導入支援の提供にさらなる投資を行いました。また、統合エコシステムの構築にもますます注力することで、お客さまにHubSpot製品をもっと有効活用していただき、HubSpotのソフトウェアスイートを採用してくださった方々に真の価値を提供できるよう取り組んでいます。
摩擦が大きいとフライホイールの回転は止まってしまいます。そこで、摩擦が大きくなりやすい部分を対象に、体系的な投資を実施してきました。例えば、入口となる無料の優れたソフトウェア、リアルタイムに連絡の取れるチャネル、見込み客に課題の解決策を提示する営業プロセス、幅広い顧客トレーニングなどがあります」- HubSpotマーケティング担当バイスプレジデント、ジョン・ディック
今や企業の成長を脅かす一番の要因は、競合他社ではありません。「顧客満足度の低さ」なのです。
ですから、企業は顧客を何よりも優先し、数字だけを追求した表面的な成長ではなく、持続可能性の高い本質的な成長を遂げなくてはなりません。HubSpotではその実現のために、顧客とはスプレッドシート上の数字ではなく、まず1人の人間であると肝に銘じ、顧客が望むタイミングと方法で顧客に働きかけています。それが、常に顧客を中心に据えたビジネスを展開すること、取引だけでなく顧客との関係も重視することにつながります。持続可能な成長を遂げるには、最も成果が見込める領域に推力を加え、その途上で摩擦が発生しないように取り組むことが必要です。特に顧客に悪影響を及ぼす摩擦は排除しなくてはなりません。
うまく進められなかったときや、不誠実な手段に頼ってしまったときには、人が離れてしまうのも当然です。しかし、時間とコストをかけて、透明性が高く、分かりやすく、本当に顧客の役に立つようなプロセスを構築できたなら、気付いたときには頂上まで登りつめていることでしょう。
インバウンド思想とフライホイールを今すぐ取り入れて持続可能な成長を目指すなら、必要な機能がそろったHubSpotのCRMプラットフォームをぜひご活用ください。
このプラットフォームにより、マーケティング、営業、カスタマーサービス、コマースの各領域にわたる顧客情報を一元化できます。各レコードは顧客と接する全ての従業員が閲覧でき、コンタクト1人ひとりの行動を最初の接点から追跡することが可能になっています。営業の顧客関係管理、マーケティングオートメーション、コンテンツ管理、カスタマーサービス、業務オペレーション、コマースを1つのプラットフォームに統合することで、フライホイールに推力を加え摩擦を軽減するために必要な機能を提供します。
ファネルからフライホイールへの移行がビジネスにどのような変革をもたらすのか、HubSpotの実体験をお伝えします。
ビジネスの持続的な成長には、顧客満足度の向上と顧客との長期的な信頼関係の構築が不可欠です。この目的に特化したHubSpotのService Hubをご紹介します。