【HubSpot導入事例】Operations Hubの活用で煩雑なスプレッドシート管理を脱却し、オペレーションの効率化と最適化を実現 ~株式会社マネーフォワード クラウドStore事業部~
クラウド会計ソフト「マネーフォワード」で知られる株式会社マネーフォワード。バックオフィスの業務効率化を実現するマネーフォワードクラウドシリーズでは対応しきれない業務のDXを推進するために立ち上げられたサービスが「マネーフォワード クラウドStore」です。
Google Workspace やMicrosoft365、Zoomなど、世界的なシェアを誇るクラウドツールを販売する同サービスでは、多岐にわたる商材とプランを提供するというビジネスモデルから、売上等の数値集計を中心としたオペレーション業務に課題があったといいます。
事業立ち上げから1年、営業体制強化のタイミングでシステム環境を整備すべく、同社は顧客情報の一元管理に舵を切ります。そこでCRMとともにマーケティング、セールス、カスタマーサービスといった一連の顧客接点を担うHubSpot製品群「Marketing Hub」「Sales Hub」「Service Hub」、加えてオペレーション業務の課題を解決するための「Operations Hub」導入を決定しました。
取り組みの背景にあった課題から、実際のHubSpot活用までのお話を、プロジェクトを主導した株式会社マネーフォワードの小林氏と、HubSpotの導入支援を手掛けたインフォニック株式会社の今村氏に伺いました。
さまざまなクラウドツールを販売する「マネーフォワード クラウドStore」
(株式会社マネーフォワード 小林 英恵 氏)
「マネーフォワード クラウドStore」は、Google WorkspaceやMicrosoft365、Zoomなどをはじめとした各種クラウドツールを代理販売するサービスです。グループウェアや、WEB会議システム、経営管理など、目的に応じた多様なツールが揃っている同サービスは、どのような背景から立ち上げられたのでしょうか。
「マネーフォワード クラウドStoreは2020年4月に開始したサービスです。バックオフィスの業務効率化をミッションにしているマネーフォワードクラウドシリーズですが、Web会議やファイル共有など、自社のサービスだけでは対応しきれない業務もあります。
そこで、バックオフィス業務に限らず、さまざまな業務のDXを推進するためにマネーフォワード クラウドStoreが立ち上げられました。
また、マネーフォワードの取引先である士業様の先にいるクライアント様からも『バックオフィス向けソフト以外にも何か便利なサービスがないか』といったご相談を数多くいただいていたことも背景にあります」(小林氏)
サービス開始当初はユーザー自身がクラウドツールを選び、購入から導入まで自ら実施するセルフサーブ方式でした。その後、販売強化していくことが決定され3名から6名体制に増員し、その後もマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスという役割ごとに担当者を置く体制で事業を拡張していきました。
顧客情報を一元管理し、最新かつ正確なデータが可視化される状態を目指しツール導入を検討
働き方改革への意識の高まりを背景に、サービスの拡大を進めるマネーフォワード クラウドStore。Operations Hubの導入支援を含めた運用管理プロセスの構築を支援されたインフォニック株式会社の今村氏と小林氏に当時を振り返っていただきました。
「マネーフォワード クラウドStoreでは取扱商品が豊富になるにつれ、複雑な料金体系に応じた営業・売上の管理が必要になっていました。月額制の商品もあれば単発で発生する商品もあり、さらに割引率などが細かく設定されている商品もあります。それらを一つのスプレッドシート上でなんとか管理していましたが、現場ではさまざまな課題を抱えていました。
一つは売上に関するデータを一元管理できていなかったことです。ご提供するサービスごとにスプレッドシート内のタブを分けて管理しており、新規購入と追加のライセンス購入など、同一のお客様に紐づく取引情報を一元化できていませんでした。
もう一つはスプレッドシートでの運用管理の属人化です。各商品の担当者に運用管理が任されており、シートによって設置された項目が違うこともあれば、データが更新されていないこともあり、正しい情報の把握に時間がかかっていました。
それにより、スプレッドシート上のデータの絞り込みを誤ってしまい、MTGや社内への報告で共有する数字が担当者によって違いが出てしまったり、MRR(月次経常収益)の算出に時間がかかってしまったり、といった課題に繋がっていたのです。
提供サービスごとの管理画面を確認すれば、リアルタイムに正しい情報を確認することはできます。
しかし、提供サービスが複数あるため、毎回それを行うには手間がかかりすぎます。今後提供サービスが増えてビジネスを拡大していくためには、データを一元管理し、新しいメンバーでも最新かつ正しいデータがすぐに確認できる状態を構築することが必要だと考えました」(小林氏)
(インフォニック株式会社 執行役員 今村 一壽様)
「インフォニックにご依頼いただき、最初にお話を伺った際に、月次でMRRやライセンス数の推移を追える状態にしたいとご要望いただきました。しかし今小林さんがおっしゃったとおり、クラウドStoreさんの多数の商品の売上管理にあたって標準的なツールを導入してそのまま運用まで落とし込むのは難しいと感じました。
それに、サービス内容には導入後のサポートも含まれていることから、商談後は営業からCSへユーザー管理に関するデータを連携して引き継ぐ必要があります。そのため、解約申請やプラン変更などのデータが、リアルタイムで更新されていることも重要です。
マネーフォワード クラウドStoreさんで求められた要件に合わせるためにはそれぞれの運用のステータスに合わせて、自動的に集計対象となるデータを作成する必要があるのでは、と思いました」(今村氏)
業務要件に応じて自在にデータ表現をカスタマイズできる「Operations Hub」
営業体制強化に伴い、お客様データが一元管理されている状態を実現するため、ツールの導入が検討されました。ツールの比較では、以下のような項目を重視したといいます。
「導入決定の際、まだ私はいなかったのですが、以下の点を重視していたと聞いています。
- プラン、サービス、契約の種類など、さまざまな角度から売り上げのデータを確認できること
- フォーム、LPを自分たちで構築できること
- ツール操作のしやすさ
先ほどお話した課題の解決だけでなく、スピーディな事業展開を実現するため、自走しやすいシステム基盤を作ることが重要でした。社内のチームには、プログラミングに詳しいメンバーをアサインしていなかったため、営業担当者でも直感的に操作できることも欠かせないポイントだったのです。
そこで、統合型のCRMプラットフォームであるHubSpotが選択肢にあがりました。顧客管理システムをベースに、その上でマーケティング、セールス、カスタマーサービス業務に適したサービスが提供されているため、各部門同士でスムーズに連携できるイメージがつきました。
元々マネーフォワード本社でも導入実績があり、使い勝手についても定評がありました。また、2021年に登場したばかりのOpertions Hubを利用すれば運用に即したシステムの構築ができるのではないかと考え、Operations Hubを含めた、HubSpot製品の導入が決定したのです」(小林氏)
「Operations Hubは名前の通り、サービス運用業務の課題を解決するプロダクトです。
自分でコードを書くことで、ソフトウェア内に蓄積したデータを柔軟に表現できるため、例えば商談成約後、納品までの間に任意のタイミングで売上データを作成するというフローを組んだり、月末の締め処理の際に売上データを自動整備したりと、業務のニーズにあわせたデータ活用を支援します。Operations Hubはまさに、痒いところに手が届く、従来のHubSpotの機能を大きく拡張するような存在です。
マネーフォワードクラウドStoreさんの場合も、HubSpotの標準レポート機能だけでは表現の難しいご要望がたくさんありました。しかし新製品のOperations Hubにより解決するという今回のプロジェクトは技術畑出身の自分にとって、楽しいチャレンジでしたね」(今村氏)
最も苦労したのはデータ移行。二人三脚で要件見直しと再構築を重ね、4ヶ月かけて導入を完了
HubSpotの導入が決定し、まず最初に着手されたのがスプレッドシートからのデータ移行でした。
タブごとに管理されていたサービス別のデータを確認し、整形しながらHubSpotにインポートする作業を進めていくなかで、様々なチャレンジがあったと今村氏と小林氏は語ります。
「導入初期を振り返ると、業務の運用に関わるツールのため、マネーフォワードさんにヒアリングしてやっと分かる部分があったと思います。キックオフでご説明いただいてまず構築し、少しずつテコ入れをしながら何度か再構築を繰り返して納品にいたりました」(今村氏)
「データのインポート作業がとても大変で、半泣きの状態でした。スプレッドシートの顧客データや売上データが本当に間違っていないか、一つひとつ確認した上で、別のシートにデータを統合し、それをHubSpotにインポートしていったので、本当に骨の折れる作業でした。
当時はメンバーがまだ少なくて、セールスの私とCS担当者1名の2名が中心になって対応していたのですが、むしろそれが良かったと思います。
関わる人が多いと、確認が大量に発生するので、迅速な移行は困難でした。
その後、チーム内の社員にも手伝ってもらい、新しいメンバーが参加する前には無事に顧客情報を登録し終えることができました。スプレッドシートとの並行運用を1.5ヶ月間行い、それからHubSpotに一本化して本格的な運用を開始しました」(小林氏)
現在、クラウドサービスとそれ以外のサービスとは分けて売上管理をしているそうです。クラウドサービスは月額の料金体系であり、クラウドサービス以外の導入支援サービスやマニュアル販売などでは、それぞれの単価で計算される仕組みです。
「月額料金のクラウドサービスでは、契約が新規か否か、契約期間によって割引率が細かく違ってきます。もし手動で管理しようとすると必ずミスが発生しますが、Operations Hubのおかげでしっかり管理できています」(小林氏)
ダッシュボード上で売上データのリアルタイム更新を実現。各担当者が数字に対する責任を意識するように
今回の取り組み以前は、お客様のデータが一元管理されておらず、リアルタイムで売上を確認できないことが課題でした。
運用を開始して半年が経ち、マネーフォワード クラウドStoreでは現在どのような変化が見られているのでしょうか。引き続き、小林氏にお話を伺いました。
「1つは、週1で実施している定例ミーティングの準備工数が大幅に削減された点です。以前はスプレッドシートにデータをまとめ、それを資料にするという手順で、データの絞り込みや関数を使いながら1時間ほどかけてレポートを作っていました。
それが今はHubSpotのダッシュボードをキャプチャするだけで済むことが多く、20分程度で準備できています。業務効率化が進んで、より生産的な業務に時間を割けるようになったうえに、手動の作業が激減したためヒューマンエラーはほぼゼロになりました。
他にも、マーケティングやインサイドセールス、CSごとにダッシュボードで達成率といった数字をまとめられるようになったことで、各担当者の数字に対する意識が高まったこともHubSpotを導入したことによる良い影響だなと感じています。
またHubSpot導入前は、フォームやLPの制作は別の部署に依頼していたため、繁忙期にはどうしても時間が掛かっていました。しかし、HubSpotのCRMにデータを統合し、業務領域ごとにHubSpotのサービスを使える環境を作ったことにより、自分たちの判断でフォームやLPを気軽に作成できるようになりました。施策のスピード感が格段にあがっています」(小林氏)
現在HubSpotをメインで活用しているのは、導入後にチームへ参加した社員の方だそうです。
これまでこうしたツールを触った経験はなかったものの、操作のしやすさと今村氏が作成したマニュアルを活用しすぐ自走できるようになったとのこと。現在でもこのマニュアルは新人のオンボードの際に活用されており、都度更新されているそうです。
新規事業としてスタートしたマネーフォワードクラウドStoreは、インサイドセールスとフィールドセールスがより連携できる体制を強化、3月の売り上げでは昨対比で3.5倍の成長を実現しています。
オペレーション構築の成功には、現場を知り、最後までやり切るキーパーソンの力が不可欠
取材の最後に、今回のプロジェクトを振り返って得られたノウハウと、同じようにサービス運用に悩まれている企業の担当者へのアドバイスを頂きました。
Operations Hubの導入支援と設計を担当した今村氏は「ちゃんと最後までやりきる人の存在」が重要であると話します。
「今回のプロジェクトで感じたのは、小林さんのように最後までやりきる人とのコミュニケーションが導入の成功に欠かせないということです。構築したいシステムの要件がしっかり伝えられるか、そしてチーム内にシステムを浸透させられるかは、コミュニケーションに掛かってくるのではないでしょうか」(今村氏)
今回のプロジェクトで中心的な役割を果たした小林氏は、CRMをきちんと設計して導入することの重要さに改めて気がついたといいます。
「スプレッドシートでは、いくらでも関数を組めます。前職ではSFAを活用しながらスプレッドシートでデイリーとウィークリーの情報すべてまとめていたこともありましたし、他社さんでも同様のケースは少なくないと思います。
しかし、スプレッドシートだけではやり切れないことが絶対にあり、いつかは壁に当たってしまうはずです。だからこそ、CRMをきちんと設計して導入することは絶対に大事だと思っています。
HubSpotの導入では苦労する場面もありましたが、過去に経験していた『壁』をしっかり超えたいという意地からプロジェクトを進めました。スプレッドシートに依存せずHubSpotのようなCRMを基盤にしながらオペレーションを構築していくこと、これが重要だと伝えたいですね」(小林氏)